認知症予防に対して、運動による介入が一定の効果を示していることが報告されています。(斉藤琴子ら,MB Med Reha,206:30-35,2017)
では、どのような運動が認知機能低下を抑制するのでしょう。
例えば、サッカー、バスケット、ラグビーなどのボールを使ったゲームスポーツは、どうでしょうか。 こうしたスポーツは、周囲に注意を向け、動いているボールを目で追いながら、五感(主に視覚と聴覚)から入ってくる膨大な情報を素早く処理(知覚・認知・判断)して、運動機能である手や足でアウトプットします。
これらの一連の行動は視覚認知機能(視覚性注意、視覚探索力、眼球運動・視空間認知)、聴覚認知機能(聴覚性情報処理)、視覚と手足の運動機能との協調性など、多くの認知機能を使っています。 広汎な認知機能を活性化するのには、「2つ以上の動きを同時に行う」「複数の動作を覚えて指示に対応する」「左右・上下異なる動きをする」等の複数のタスクを同時に処理することが有効なことがわかっていますから、これらのゲームスポーツは認知機能低下効果が期待できそうです。
また、ゲームスポーツは役割を得ることで自信をもち(自己肯定感)、社会参加のための体力づくりにもなり、生涯現役の一助になることから、最近では経験がなくても自身が楽しめるものにチャレンジする人が増えています。
ただし、10代や20代で活躍したスポーツをシニア世代になってもう一度取り組むということは意外に難しい。これは活躍した記憶(エピソード記憶)とスポーツ技術の記憶(手続き記憶)は長期記憶として残っているため、やり方はわかっているけど思い通りにできない自身の姿を受け入れられないことに起因しているのかもしれません。
一方、以前のコラムで紹介しましたが、ゲームスポーツやコンタクトスポーツの中には、脳しんとうリスクのある競技があります。頭部への衝撃は記憶力や集中力の低下に影響を受けるだけでなく、繰り返し行うことで、認知症の発症要因のひとつであるタウ蛋白が蓄積することが報告されています。
くれぐれも接触プレーには気を付けて(空間認識力・注意力)、興奮して熱くならないように(抑制力)、頭脳プレーで多くの認知機能を使いながら、楽しくスポーツに取り組んでいくことが結果としての認知症予防になるのではないでしょうか。
(認知機能の見える化研究所)