渡辺氏:高齢化に伴って、整形外科病院としても認知機能支援を強化する必要がありました。その中でCogEvoというツールを知り、デジタルデバイスとして魅力を感じたのが導入のきっかけです。
脳トレは楽しくないと意味がない。苦行として何かをやるのはあまりいいことではないわけです。CogEvoは楽しく取り組めて、人による差が起きづらく、データの一元管理ができ、瞬時に結果がグラフ化される。結果を視覚化できることは、実施していただいた方にとってもすごく魅力が高いポイントでした。
渡辺氏:整形外科の患者さんは、他の内科や外科と比較すると、健康度が高い人が比較的多いんです。そもそも物忘れや認知症になりたくないという関心はベースとしてみなさんお持ちです。
入院しているとリハビリと治療、ケア以外の時間を持て余す人もいるわけです。その時に一緒に「体と一緒に頭も動かそうね」というのが一つのコンセプトです。そこまで動機付けしなくても、関心がある人は集まってくださいね、という形で、強制するわけでもなく、じゃあこの機会にちょっと脳トレでもやってみようか、という感覚ぐらいでいいかなと思っています。
渡辺氏:院内で立ち上げた「CREVER(クレバー)プロジェクト」として様々な取り組みを展開しています。最も活用が進んでいるのは病院内にある「はぁとふる保健室」での取り組みです。
森本氏:みんなの保健室、地域の保健室のようなコンセプトで、最終的には誰が来てもらっても、病院にかかってなくても、相談に来てくれたらいいなという保健室にできたらと考えています。
渡辺氏:ここでたくさん使ってほしいなと思って、プリンターを買ったんです。すぐに結果をプリントアウトできて、お渡しできるような状態にしました。それで満足度が高くなって、その場で結果をもらえるのはいいなと思っています。保健室に常駐する看護師さんが対応してくれています。
森本氏:「ヴィゴラス」(病院併設のメディカルフィットネスジム)での周年祭でも活用していて、CogEvoが一番のキーコンテンツになっています。整理券を配って実施するほど盛況なんです。
森本氏:介護の日、看護の日、いろんなイベントでCogEvoを実施しています。院内のイベントではかなり活用していて、地域の老人会に出張的に実施することもあります。イベントをやるごとに、こういうニーズが高いよね、という地域の状況をよく実感します。
渡辺氏:「ヴィゴラス」で自転車を漕ぎながらCogEvoを実施したこともあります。病院のスローガンが「頭使って、体動かして」なので、それを体現する取り組みです。
森本氏:「食べて動いて喋って笑ってよく寝る」という5本柱を大事にしているので、その中の「頭使って動いて」の部分ですね。
渡辺氏:最も驚いたのは訪問看護での結果です。重度認知症の患者さんで、やったことは忘れているのにCogEvoの成績が上がっているんです。エピソード記憶は保たれていないけれど、手続き記憶は向上している。これは非常に興味深い発見でした。
具体的には、フラッシュライトで光が終わるのを待てるようになったり、視覚探索がスムーズになったり。覚えていないのにできるようになる、という現象が確認できています。
渡辺氏:はい、注意力の向上が転倒予防に繋がっています。注意機能が向上することで、注意して歩いたり見たりするところが改善される。きちんと注意を集中させればそれだけの力を発揮できるはずなんだけど、日常ではそれが落ちてしまう。そこが改善されるんです。
渡辺氏:認知機能向上とともに、『コミュニケーションツール』として活用しています。これを使ってより良いコミュニケーションを取り、全般的に良い刺激を提供することが目的です。やらされている感じではなく、楽しく取り組んでもらうことを重視しています。
渡辺氏:包括支援センターや役所からの依頼で老人会での実施もあります。「いきいき100歳体操」と組み合わせた取り組みも考えています。
理想は「クレバーボランティア」のような形で、この取り組みに関心を持った一般の方が地域に広げていってくれる循環を作ることです。保健室で体験した患者の家族の方が、保健室で関心を持った人が誰かに勧めて、その人がまた新しい人に教えてあげる。そんな地域への広がりを期待しています。