認知機能は認知症の発症リスクと捉えられている側面がありますが、10月に開催された認知症学会の会長講演では糖尿病性認知症をテーマにされるなど、近年、糖尿病などの生活習慣病と認知機能低下の関連について注目されています。また最近では、がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)でも認知機能低下が見られることが報告されています。
認知症における認知機能低下は「物忘れ」、つまり記憶力(近時記憶)の低下が主訴となることが多いですが、糖尿病では海馬の萎縮があまり見られず、『注意力の障害が高度であるが、記憶課題の遅延再生の障害が軽度である』とされています。米国で行われた2型糖尿病を対象とした試験では、HbA1c値の上昇とともに認知機能、なかでも前頭葉機能が低下することが示されています。
『COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは酸素マスクをしていても、入院2日目頃からボーッとして明らかに認知機能が落ちている』と医療スタッフの方から聞くことがよくあります。臨床研究でも認知機能低下と低酸素血症との相関の報告が多く、注意力の障害が最も共通してあるそうです。また海外の研究(Singhら)でも『COPD患者から有意に多く非健忘型の軽度認知機能障害(MCI)が発症した』と報告されるなど、記憶障害は軽度でも注意障害などの前頭葉機能に関わる認知機能低下が見られるケースが多いようです。
また、がんの化学療法による記憶力・集中力・作業能力の低下などの軽度な認知機能変化を「ケモブレイン」と言い、がんの診断あるいは治療に関連するこの認知機能障害を総称してCRCI (cancer related cognitive impairment)と呼ばれています。
がん患者におけるCRCIに関する長期的な神経心理学的評価を行った研究によると,がんの治療を受ける前から約30%の患者に,また治療経過中には75%に及ぶ患者に認知機能障害が認められ,このうち35%は治療終了後も数カ月~数年にわたり症状が継続していたことが報告されています。(Janelsins,M.C.et a1.: Semin Oncol,38;431-438,2011)
このように、認知機能は認知症だけでなく、私たちの身近な病気と深く関わっています。かかりつけ医には、病気の種別に関わらず簡単に認知機能をチェックできるものがあればいいですね。